結論から言うと、ミトコンドリアは、細胞が働くためのエネルギーを作る大切な場所の一つです。髪を作る毛包の細胞にも関わっていることが、研究で調べられています。
ただし、「ミトコンドリアを増やせば髪が生える」と言える段階ではありません。今回は、わかっていることと、まだわからないことを分けてお伝えします。
前回は、16時間断食をきっかけに体の仕組みに興味を持ち、その約半年後に育毛を始めた、という僕の話をしました。その途中で気になったのが「ミトコンドリア」です。
▶ 前回の記事:花巻の美容師が育毛を考えるようになったきっかけは?16時間断食から始まった話
こんにちは。岩手県花巻市の美容師、おいさんです。
名前は聞いたことがあるけれど、何をしているものなのかは、よくわからない。そんな方もいると思います。今回は、ミトコンドリアの基本と、髪との関係をお話しします。
ミトコンドリアとは、何をしているもの?
ミトコンドリアは、多くの細胞の中にある小さな器官で、よく「細胞の発電所」と例えられます。
もちろん、本当に電気を作ってコンセントにつなぐわけではありません。栄養素から取り出したエネルギーを、細胞が使える形に変える役割を担っています。
そこで登場するのが、ATPという物質です。ATPは、細胞のさまざまな仕事にエネルギーを渡す役目をしています。ミトコンドリアは、細胞が使うエネルギーの大部分を作る場所です。[1]
たとえるなら、食事で取る栄養は燃料や材料。
ミトコンドリアは、燃料を使って、仕事に使えるエネルギーを用意する設備。
ATPは、そのエネルギーを細胞の仕事へ渡すもの、です。
「何を食べるか」に加えて、「細胞の中でどう使われるか」という仕組みもある。僕が面白いと感じたのは、こうした体の中のつながりでした。
髪の材料をそろえれば、それだけで十分なの?
髪を作ることを、ものづくりに例えてみます。
材料が届いても、それを加工する設備や、設備を動かすエネルギーがなければ、製品はできません。
髪を作っている毛包の中でも、細胞が増えたり、髪を構成する物質を作ったりする活動が続いています。その活動を支えるエネルギー代謝に、ミトコンドリアも関わっています。[2][3]
ここで話しているのは、皮膚の中で髪を作っている、生きた細胞の働きです。すでに伸びた毛先を、ミトコンドリアが内側から修復するという意味ではありません。
今ある髪をケアすることと、新しい髪を作る細胞を考えること。この二つには、それぞれ違う役割があります。
僕が「育毛は、内側の髪質改善」と表現しているのも、こうした視点を大切にしたいからです。
毛包のミトコンドリアは、実際に研究されているの?
「髪とミトコンドリア」という組み合わせは、単なるイメージの話ではありません。
人の頭皮から取り出して培養した毛包を使った研究では、甲状腺などに関わるホルモンを加えると、ミトコンドリアの機能や、新しく作られる様子に関わる指標が変化したと報告されています。[2]
また、培養したウシの毛包と、抜いた人の毛の根元を観察した研究では、毛包の中の場所によって、ミトコンドリアの活動の様子が違うことが示されています。[3]
こうした研究から、毛包の中でも、エネルギーの使い方が場所ごとに調節されていることがわかります。
ただし、これらは主に、実験室で仕組みを調べた基礎研究です。特定の食事やサプリメントを使うと、人の薄毛が改善することを確かめた臨床試験ではありません。
髪に関わる仕組みがわかったことと、その仕組みを利用した育毛法が確立したことは、分けて考える必要があります。
ミトコンドリアを「たくさん働かせれば」いいの?
ここまで聞くと、「では、ミトコンドリアをどんどん活発にすればいいの?」と思うかもしれません。でも、毛包の仕組みは、もう少し複雑です。
細胞には、ミトコンドリア以外にも、糖を分解してエネルギーを得る「解糖系」という仕組みがあります。毛包の中でも、細胞の役割や状態によって、代謝の使い方が異なります。[3][4]
マウスを使った研究では、毛包幹細胞が活動を始める過程で、解糖系に続く乳酸の産生が重要であることが報告されています。[4]
つまり、「ミトコンドリアはよい、解糖系は悪い」という分け方では理解できません。それぞれの細胞に、そのとき必要な働きがあります。
だから僕も、「ミトコンドリアを増やせば髪が生える」と一言で説明するのは避けたいと思っています。知るほどに、体は一つのスイッチだけで動いているわけではない、と感じます。
断食や減量の経験で、僕のミトコンドリアは変わったの?
僕自身は、16時間断食に取り組む中で17kg減量した経験があります。その経験が、ミトコンドリアを調べるきっかけになりました。
ただ、僕が自分の毛包のミトコンドリアを測定したわけではありません。体重が減ったことだけで、髪を作る細胞のミトコンドリアが増えたとか、働きが改善したとは判断できません。
まして、その経験だけで、断食に育毛効果があったと結論づけることもできません。
自分の経験は、調べるきっかけにする。調べたことは、根拠を確かめながら伝える。その姿勢を大切にしながら、髪と体のことを考えていきたいと思っています。
毎日の暮らしでは、何を考えればいい?
この話を知ったからといって、すぐに特別な商品を足す必要はありません。僕がまず一緒に振り返りたいのは、日々の食事や休息、髪と頭皮の状態です。
- 食事を極端に減らしたり、大きく偏らせたりしていないか。
- 忙しさの中で、休む時間を後回しにしていないか。
- 抜け毛や頭皮の変化が続いているのに、そのままにしていないか。
日本皮膚科学会も、バランスの取れた食生活、適度な休息、規則正しい生活や、髪・頭皮に合うケアを勧めています。一方で、これさえすれば抜け毛を防げる、という特別な方法があるわけではないと説明しています。また、抜け毛の原因によって対応が異なるため、皮膚科などで相談することも大切です。[5]
これらは「毛包のミトコンドリアを確実に増やす方法」という意味ではありません。まず自分の状態を知り、日々の健康を大切にするための基本です。
髪を見るときに、エネルギーという視点を加えるとどうなる?
髪が気になると、何を塗るか、どの商品を使うかに目が向きやすいと思います。
そこに、「髪を作っている細胞は、どう働いているんだろう?」という視点も加えてみる。今回、僕が伝えたかったのは、そのことです。
髪を作るには材料が必要で、その材料を使って仕事をする細胞にはエネルギーも必要。ミトコンドリアは、その仕組みを知るための大切な入り口の一つです。
僕は、今ある髪をきれいにする技術とともに、これから生える髪を考えるための知識も深めていきたいと思っています。
花巻市で、髪のボリュームや頭皮のことで気になることがある方は、ご来店の際、またはLINEでお聞かせください。
次回は、そこから僕の関心が広がった「腸活」の話です。腸と髪はどう関係するのか。僕自身の体験と、研究でわかっていることを分けながら、お話ししていきます。
▶ 腸活は髪にも関係する?花巻の美容師が、腸にも目を向ける理由
よくある質問
Q. ミトコンドリアを増やせば、髪は生えますか?
A. そうは言えません。紹介した研究は、毛包の仕組みを調べた基礎研究で、人の薄毛が改善することを確かめたものではありません。抜け毛や薄毛は原因によって対応が違うので、気になるときは、皮膚科で原因を確認してください。[5]
Q. ミトコンドリアを増やすと言われる食べ物やサプリメントは、育毛に効きますか?
A. この記事で紹介した研究からは、効果があるともないとも言えません。商品の効果は、その商品自体を人で調べた研究で確かめる必要があります。気になる場合は、医師や薬剤師にご相談ください。
Q. 16時間断食をすると、ミトコンドリアは増えますか?
A. 僕自身は測定していないので、わかりません。体重が減ったことだけで、髪を作る細胞のミトコンドリアの状態を判断することはできません。断食は誰にでも合うものではないので、持病や服薬のある方、妊娠中・授乳中の方などは、自己判断で始めず、医師にご相談ください。
Q. 抜け毛が気になるとき、まず何をすればいいですか?
A. 急に抜け毛が増えた、部分的に抜けた、頭皮に炎症があるなどの場合は、皮膚科で原因を確認してください。そのうえで、美容室では、髪や頭皮の状態を見ながら、日々のケアを一緒に考えます。[5]
この記事を書いた人
おいさん
美容師歴28年。岩手県花巻市で、髪質改善ストレートとホームケアを通して、お客様の髪と向き合っています。
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参考にした資料
- National Human Genome Research Institute. Genetics Glossary: Mitochondria.
- Vidali S, et al. Hypothalamic-pituitary-thyroid axis hormones stimulate mitochondrial function and biogenesis in human hair follicles. J Invest Dermatol. 2014;134(1):33–42.(培養した人の毛包を用いた基礎研究。生活習慣や育毛商品の効果を示す研究ではありません)
- Lemasters JJ, et al. Compartmentation of mitochondrial and oxidative metabolism in growing hair follicles: a ring of fire. J Invest Dermatol. 2017;137(7):1434–1444.(培養したウシの毛包と、抜いた人の毛を用いた観察研究)
- Flores A, et al. Lactate dehydrogenase activity drives hair follicle stem cell activation. Nat Cell Biol. 2017;19(9):1017–1026.(主にマウスを用いた基礎研究。人での発毛効果を保証するものではありません)
- 日本皮膚科学会「抜け毛を防ぐ生活上の注意点はあるでしょうか?」
※断食、減量、関心の変化は、筆者自身の体験に基づきます。この記事は、ミトコンドリアや断食による発毛効果を保証するものではなく、脱毛症の診断や治療を目的としたものでもありません。気になる症状がある方は、医療機関にご相談ください。効果や感じ方には個人差があります。

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