結論から言うと、髪質改善の仕上がりは、美容室だけでは完結しません。美容室では、美容師が髪の履歴を見て施術を設計し、家では、お客様が洗い方・乾かし方・熱の使い方で守る。この役割分担が大切だと、僕は考えています。
ただし、ホームケアをがんばれば、傷んだ髪が元通りになる、と言える段階ではありません。この記事では、論文や皮膚科学会の情報でわかっていることと、僕の考えを分けて書きます。
▶ 前回の記事:手荒れと腸内フローラは関係ある?花巻の美容師が、論文でわかっていることと僕の体験
こんにちは。岩手県花巻市の美容師、おいさんです。
美容室で髪がきれいになると、うれしいですよね。
鏡を見るのが楽しくなったり、つい髪に触りたくなったり。
僕が髪質改善で目指しているのは、その日の仕上がりと、ご自宅に帰ってからの扱いやすさです。前回の記事の最後に、美容師らしい話に戻ります、と予告しました。今回は、僕がいつもお伝えしている「ホームケアが大事」という話を、髪質改善とのつながりから書いてみます。
たくさんの商品を使ってほしいからでも、毎朝、美容室と同じブローをしてほしいからでもありません。美容室で整えた髪を、毎日の生活の中でも大切にしてほしい。そのために、施術とお手入れを、一緒に考えていきたいんです。
髪質改善は、美容室だけで完結するの?
髪質改善ストレートを、年2回受けるとします。美容室で髪を整えられるのは、施術の日を1日ずつ数えて、1年のうち2日です。年3回でも、3日です。
では、残りの363日(年3回なら362日)は、どうでしょうか。髪を洗い、乾かし、とかし、アイロンを使い、紫外線を浴びる。その毎日は、お客様ご自身の手の中にあります。
- 美容室でやること:髪の履歴を見て、薬剤や温度、施術の回数を設計する。必要ならカットする。
- 家でやること:洗う、整える、乾かす、熱を使いすぎない。施術の仕上がりを、毎日の暮らしの中で守る。
髪質改善は、美容師だけでも、お客様だけでも、完成しません。お互いの役割がそろったときに、はじめて長持ちする。これが、僕の考えです。
今の髪には、どんな履歴があるの?
カラーやブリーチ、縮毛矯正。毎日のアイロン、ブラッシング、洗い方。髪は、これまで受けてきた施術や扱い方の影響を受けます。
毛束を使った実験では、ブリーチをした髪は、とかしたときの切れ毛が増え、コンディショナーを使うと、切れ毛が減ったと報告されています。[5]
だから僕は、髪を見るときに「今、どんな見た目か」と一緒に、「ここまで、どんなことをしてきたか」を確認します。根元と毛先では、受けてきた施術の回数も違います。同じ頭の髪でも、全部が同じ状態とは限りません。
どんな履歴からでも、同じ結果を出せるわけではありません。これは、きれいになることを諦めてほしい、という意味ではありません。これからの施術やケアを選ぶために、今の状態を知りたい、ということです。
時間はかかるかと思いますが、通っていただければ、少しでもご希望に近づけるよう、全力を尽くします。
たとえば、他店での縮毛矯正や高温のアイロンで、強い熱変性やダメージが残った髪は、一度の施術で全部をきれいにできるとは限りません(これは、僕が日々の施術で感じていることで、研究で確かめた話ではありません)。新しく伸びた部分のクセは整えられても、すでにガサガサになった部分まで、完全に元に戻せるとは限らないのです。
無理に一度できれいにしようとして、強い薬剤や熱を重ねれば、髪にさらに負担をかけるおそれもあります。だから、状態によっては、次のように進めます。
- 新しく伸びた部分は、負担を抑えて、きれいに伸ばす。
- すでに傷んだ部分は、守りながら、少しずつカットしていく。
- 来店のたびに、質感のよい履歴を積み上げ、傷んだ履歴を毛先から入れ替えていく。
ダメージの履歴は、「消える」のではなく、伸びた髪をカットすることで、少しずつなくなっていきます。僕がよく考える「良い履歴を積み重ねる」というのは、こういうことです。
髪質改善で、何を整えたいの?
ひとことで「髪質改善」と言っても、お客様が困っていることは、それぞれです。
クセを伸ばしたいのか。広がりを抑えたいのか。毛先の引っかかりを減らしたいのか。柔らかさや、自然なボリュームを残したいのか。まずは、そこを整理したいと思っています。
僕の施術では、必要な根元のクセはストレートで整え、中間から毛先は、状態に合わせて、トリートメントで質感を整える、といった使い分けもしています。一度ストレートにした部分へ、毎回同じように施術を重ねるとは限りません。伸びてきた部分と、これまで施術してきた部分を、分けて考えることが大切です。
薬剤、処理剤、時間、乾かし方、アイロンの使い方。それぞれを組み合わせながら、その方の髪と希望に合わせていきます。髪質改善は、化学と物理、そして髪を見極める経験を使って組み立てるもの。だからこそ、ご自宅でどんなお手入れをするかも、施術を考えるうえで大事な情報になります。
手触りが良くなることと、ダメージの履歴が消えることは、同じなの?
同じではありません。
トリートメントやコンディショナーで、髪がなめらかになり、くしを通しやすくなることには、意味があります。ただ、ブリーチをした髪を使った実験室の研究では、コンディショニング成分でくし通りが良くなっても、ブリーチによるダメージの指標(システイン酸)は、元に戻らなかったと報告されています。[6]
つまり、触った感じが良くなったからといって、過去の負担が、すべて帳消しになるわけではありません。
でも、ケアが無意味ということでもありません。コンディショナーによって、とかすときの切れ毛が減った、という毛束の実験もあります。[5] 扱いやすく整えながら、これ以上の負担を増やさない。そのために、美容室でのケアと、ホームケアを続けていく価値があると、僕は考えています。
実際の例では、どうだったの?
あるお客様は、約2年前に初めて来店されました。それから、年2回の髪質改善ストレートと、ご自宅でのホームケアを、続けていただいています。
※お客様の許可をいただいて掲載しています。3枚目は、約2年後にカラーをした日の写真です(髪質改善ストレートは4か月前)。ドライ仕上げでも、まとまりとツヤが続いていました。ホームケアも続けていただいています。撮影時の光や、仕上げ方による見え方の違いはあります。また、結果には個人差があります。
ここで大事なのは、「施術だけでこうなった」わけでも、「ホームケアだけでこうなった」わけでもない、ということです。年2回の髪質改善ストレートと、残りの日々のケアを、組み合わせた結果です。僕が一人でつくった髪ではなく、お客様と一緒に、2年間かけて育ててきた髪だと思っています。
なお、これは1人のお客様の例です。同じことをすれば、同じ結果になるとは限りません。
時間はかかるかと思いますが、通っていただければ、実現可能なように全力を尽くします。
この方の2年間の経過は、こちらの記事で、くわしく書いています。
▶ 髪質改善ストレートを2年続けると、髪はどう変わる?花巻の美容師が見た、一人のお客様の経過
ホームケアは、「洗う・整える・乾かす」のどこから見直せばいい?
毎日のケアは、工程を増やすことより、今していることを見直すところから始められます。
洗うとき:髪同士を、強くこすらない
シャンプーは、頭皮を中心に洗い、毛先をゴシゴシこすり合わせないこと。タオルも、こすらずに、髪を挟んで水分を吸わせるように使います。アメリカ皮膚科学会も、同じ考え方を紹介しています。[1][2]
汚れやスタイリング剤は落としたいけれど、そのために、髪へ強い摩擦を加える必要はありません。洗ったあとは、髪に合うコンディショナーやトリートメントを、表示に沿って使いましょう。細い髪なら、毛先を中心にするなど、重くなりすぎない量と範囲を考えます。[1]
整えるとき:ミスト・ミルク・オイルは、名前だけで役割を決めない
「パサつくから、とりあえずオイルを増やす」。そんな選び方をしたくなることもありますが、僕は、何が原因で扱いにくいのかを、先に確認したいと思っています。絡まりなのか、広がりなのか、毛先の硬さなのか。それによって、提案したいものも変わります。
ミスト、ミルク、オイルという形だけで、内部への働きや保護力が決まるわけではありません。商品ごとの設計、使う量、つける場所まで含めて、考えたいところです。
洗い流さないコンディショナーは、絡まりや広がりを抑える助けになります。熱への保護を目的に選ぶ場合は、その用途が表示されているか(「ヒートプロテクト」など)も、確認しましょう。[3]
僕自身も、ミストとオイルを、自分のクセをどう出したいかに合わせて、組み合わせています。ただ、僕に合う組み合わせや量が、全員にそのまま合うとは限りません。「何を使うか」と一緒に、「必要なところへ、どうなじませるか」も、大事にしたいと思っています。
乾かすとき:「乾かすこと」と「本格的なブロー」は分けて考える
「ホームケアが大事」と聞いて、毎日ブラシを使って、きれいにブローしなければ、と感じる方もいるかもしれません。そこまでハードルを上げなくても、大丈夫です。
まずは、タオルでやさしく水分を取り、必要なケア剤をなじませ、熱を集中させずに乾かすこと。ドライヤーは近づけすぎず、同じ場所に当て続けないようにします。
毛束を30日間、くり返し洗って乾かした研究では、ドライヤーの温度が高く、近いほど、髪の表面(キューティクル)の傷みが大きくなりました。95℃・5cmでは、ひび割れや穴も見られています。一方、長時間の自然乾燥では、髪の内部の、細胞どうしをつなぐ部分に、変化が見られた条件もあります。[7]
ただし、この小さな実験室の研究だけで、「自然乾燥は必ず悪い」「全員がすぐに完全に乾かすべき」とは決められません。皮膚科の一般的な案内でも、髪質に合わせて熱の使用を減らす方法が紹介されています。[1][2] 大切なのは、熱、摩擦、髪質、希望する仕上がりを、一緒に考えることです。
クセを伸ばしたい人と、活かしたい人では、方法が違う
僕自身はクセ毛なので、クセを活かすときには、ミストとオイルを使い、ある程度自然乾燥を取り入れてから、ドライヤーで仕上げることがあります。自分の髪では、そのほうが好みのクセが出ると感じています。
これは僕個人の仕上がりの好みであり、ダメージが最も少ないと確認した方法ではありません。ストレートに整えたい方と、カールを活かしたい方では、乾かし方の提案も変わります。「全員に同じ乾かし方」ではなく、「その髪で、どんな仕上がりにしたいか」から考えていきましょう。
アイロンは、温度だけでなく、使い方まで
ご自宅でアイロンを使うときは、乾いた髪に使うこと。髪に合った、低めか中くらいの設定から始めて、必要以上に熱を重ねない使い方を考えます。アメリカ皮膚科学会も、低めか中くらいの温度で、乾いた髪に使うことを勧めています。[4]
低い温度なら、何度通しても負担がない、というわけではありません。温度だけでなく、当てる時間や回数も、確認したいところです。
僕がサロンで取り組んでいる、低温を取り入れたストレートも、薬剤や工程と組み合わせて設計する施術です。その温度を、そのままご自宅のアイロン設定の正解にすることはできません。毎朝、同じ部分へ何度もアイロンを通さないと収まらないなら、使い方だけでなく、カットや施術の時期も含めて、相談してください。
市販のヘアケアでは、ケアできないの?
「市販品ではケアできない」とは、言えません。
市販品か、美容室専売品かは、販売経路の区分です。成分や性能の区分ではありません。市販品にも、摩擦を減らしたり、指通りをよくしたりするものは、あります。美容室専売品でも、髪に合っていなければ、十分なケアにならないこともあります。
僕が大事だと思うのは、商品の種類よりも、その髪に合っているかどうかです。髪にどんな施術の履歴があるか、太さやクセ、ダメージの程度はどうか、毎日どんな熱の使い方をしているか。「市販品で、おすすめはありますか?」と聞かれたとき、僕は、髪を見ないまま、お答えすることはできません。髪の履歴を知らずに、商品だけを薦めるのは、無責任だと思うからです。
また、どんなヘアケアでも、傷んだ髪を完全に元に戻すことは、できないと僕は考えています(これは僕の考えです)。できるのは、傷みを進めない、摩擦や熱から守る、整った状態を保つ、といったことです。だから、必要なのは、商品ではなく、今の髪に合わせた、ケアの設計です。
完璧なケアより、続けられるケアを、一緒に探してみませんか?
美容室で整えた髪を、家でどう守っていくか。そこで困ったことを、次の来店でどう調整するか。僕は、この繰り返しも、髪質改善の一部だと思っています。
忙しい毎日ですから、できることには限りがあります。全部を一度に変えなくても、大丈夫です。
- タオルで強くこすらない。
- 毛先に使う量を見直す。
- アイロンを繰り返し通す回数を減らす。
まずは、今の生活で続けられることを、一つ選ぶところから。僕は施術で、お客様は毎日のケアで。それぞれの場所から、一緒に髪を大切にしていけたらうれしいです。
「今のケアが自分に合っているかわからない」「髪質改善をしたいけれど、家で扱えるか不安」。そんな方は、花巻市で、ご来店の際、またはLINEで、普段使っているものや、いつもの乾かし方を教えてください。今の髪の状態と生活に合わせて、続けやすい方法を、一緒に考えましょう。
髪の変わり方と、髪質改善ストレートで大切にしていることは、こちらの記事でも書いています。
▶ 40代から髪がまとまりにくくなるのはなぜ?花巻の美容師が髪質改善ストレートで大切にしていること
次回は、疲れと髪の変化について、調べたことを書きました。
▶ 次の記事:疲れが取れないと、髪にも変化が出る?花巻の美容師が、お客様の髪で気になることと、調べたこと
よくある質問
Q. 年2回の施術でも、ホームケアは必要ですか?
A. 僕は、必要だと考えています。美容室で髪を整えられるのは、施術の日だけで、残りの日は、ご自宅での洗い方、乾かし方、熱の使い方で、髪の状態が変わるからです。
Q. ドライヤーやアイロンは、使わないほうがいいですか?
A. 使わない必要は、ありません。ドライヤーは近づけすぎず、同じ場所に当て続けないこと。アイロンは、乾いた髪に、低めか中くらいの温度で使うことを、アメリカ皮膚科学会が勧めています。[1][4]
Q. 市販のシャンプーやトリートメントでも、大丈夫ですか?
A. 一概には言えません。市販品にも、摩擦を減らすなどの働きを持つものはあります。ただ、髪の履歴によって、合う・合わないは変わります。ご自身の髪に合っているか、わからないときは、美容師にご相談ください。
Q. 傷んだ髪は、ヘアケアで元に戻りますか?
A. 僕は、完全に元通りになるとは考えていません。傷んだ部分は、伸びた髪をカットすることで、少しずつなくなっていきます。実験でも、コンディショナーでくし通りは良くなっても、ブリーチの傷みの指標は元に戻らなかったと報告されています。[6] ヘアケアの役割は、新しく伸びた髪を傷めず、整った状態を保つことだと思っています。
この記事を書いた人
おいさん
美容師歴28年。岩手県花巻市で、髪質改善ストレートとホームケアを通して、お客様の髪と向き合っています。
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参考にした資料
- American Academy of Dermatology. Tips for healthy hair.(2024年8月12日更新。皮膚科学会の一般向け解説。髪質に応じた洗い方、コンディショナー、乾かし方、熱の使い方。)
Tips for healthy hairHealthy hair starts with learning your hair type. See the other tips that dermatologists recommend. - American Academy of Dermatology. 10 hair care habits that can damage your hair.(皮膚科学会の一般向け解説。摩擦・熱・化学処理への注意。更新日の表示なし。)
10 hair care habits that can damage your hairHow you style your hair can cause hair to look brittle, frizzy and lackluster or even fall out. Follow these tips from d... - American Academy of Dermatology. Dermatologists’ top tips for using leave-in conditioner.(2024年3月26日更新。洗い流さないコンディショナーの選び方と使い方。)
Dermatologists' top tips for using leave-in conditionerWhen a rinse-off conditioner (applied in the shower) isn’t enough, adding a leave-in conditioner can help. - American Academy of Dermatology. Hair styling without damage.(アイロンの使い方と、熱を避ける考え方。更新日の表示なし。)
Hair styling without damageLearn how to style your hair without damaging it. - Kamath Y. Hair breakage during combing. III. The effects of bleaching and conditioning on short and long segment breakage by wet and dry combing of tresses. J Cosmet Sci. 2007;58(4).(毛束を使った実験室の研究。ブリーチで切れ毛が増え、コンディショナーで減った。)
Volume 58 No 4 page 482 - Tham HP, et al. Electrokinetic analysis reveals common conditioner ingredient interactions with human hairs. Int J Cosmet Sci. DOI: 10.1111/ics.70038(実験室の研究。ブリーチした髪と4種類の成分を比較。くし通りは改善したが、ブリーチの傷みの指標は変わらなかった。)
Just a moment... - Lee Y, et al. Hair shaft damage from heat and drying time of hair dryer. Ann Dermatol. 2011;23(4):455-462.(実験室の研究。薬剤をかけていない髪の束を使用。ドライヤーは1種類。)
KoreaMed Synapse
※この記事は、論文や皮膚科学会の情報の紹介と、筆者個人の考えを書いたものです。研究は、一般的な毛髪の性質やケアについてのもので、当店の施術や、本文中の個別の商品の効果を検証したものではありません。髪質改善ストレートやホームケアの効果を保証するものでも、髪や頭皮の病気の診断・治療を目的としたものでもありません。頭皮のかゆみ、赤み、抜け毛などの症状が続く方は、皮膚科にご相談ください。髪の状態や感じ方、結果には、個人差があります。




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